グーテンモグラの宇宙大進出(またはモグラ知識人の悲劇)

地上での近況:一部の方には、今年初めに引っ越すとお伝えいたしましたが、しばらく延期いたします。とはいえ、遅くとも、来年か再来年には引っ越す予定です。よろしくお願い申し上げます。

地下での近況:
名誉なことに、モグラ帝国の誇る知識モグ・モグ山暗夜行路氏のご著書をいただきました。著者直筆サイン付きです。
ご著書から、ちょっと引用してみましょう。
(検索でこのページへたどり着いた方へ。以下の引用文は何も意味させないようにという意図の元に書かれた駄文なり)

言うまでもなく、モグラであること―その真のモグラ性は、単に生きて潜るモグラそのものであるうちには存在しない。モグラの不断の地下への象徴的自己投棄の行為そのものの連続がモグラであることを保証するなどと言うモグラ万有神論的戯言は言うまでもなく無意味でもあり有害である。モグラが真のモグラたり得る第一条件は、言うまでもなく、モグラとの名前がついていることだけだなどという少欲知足もあり得るがそれはモグラ言霊のなせる技であるが、言うまでもなく、そのモグラ言霊があってしても、地下への自己投棄に向かう自己陶冶や自己投企や自己盗難や自己開発や自己差別の企ては、いかなる実りある結果ももたらさないのである。

『モグラ宇宙時代の幕開けに向けて』モグ山・暗夜行路/著 

私はモグ山暗夜行路氏とともに、地下洞窟の、さらさらと水が流れる地下流水の川原に立っています。長い年月、水に洗われた深緑や濃い灰色の小石は、とてもなめらかです。小モグラたちが、駆け回っては小石を広い、鏡文字になった「あ」とか「ゐ」とかの形の小石がないか探しています。石の活字というわけです。そうですここは、グーテンモグラの宇宙が大爆発したモグラ帝国国立印刷所でした。
私は本を開き、きれいに並んだ活字を眺め、凄いなあと思いました。
私はモグ山暗夜行路氏に言います。「きれいな印刷ですね」
モグ山暗夜行路氏は不満そうに言いました。
「読めるように印刷されているすべての書物は、言うまでもなく、内容が問題になるものでありましょう」
「……はあ、内容は私には難解すぎて」私は率直に言いました。
「まあ、確かに外国のお方には拙著の切実さは理解しづらいものでしょうな」モグ山暗夜行路はさすがモグラ知識モグらしく、鷹揚に言いました。「要するに、モグラ帝国の近代化に当たっては、モグラ=地下、というこのステロタイプな図式を崩さなければなりません。地下は識閾下だの地獄だのを連想させすぎますですから私たちは」
「はあ」
「宇宙に行くのです」
「宇宙ですか?」
今日はケンタウモグ祭りの日でした。川原の向こうでは、小モグラたちが集まって、空気がどんより動かない地下洞で、風車に息を吹きかけては回し、綿飴とか食っています。ケンタウモグ祭りといっても、地下だからモグラが走馬燈を回しながら、もぐもぐ踊るだけです。
活字小石を拾っている子モグラたちも、さぞかし早く仕事を終えて、ケンタウモグ祭りに行きたいことでしょう。今日は六時までの約束の少年モグ字工のジョヴァンモグは、小さな体を曲げては小石を拾っては川原に一つ積んだり三つ積んだりしています。

「宇宙ってどうやって行くんですか……」
胸に勲章をたくさんつけた、第42代モグラ議長が来ています。「我が国の誇る知性、モグ山暗夜行路は科学者でもある」
モグ山暗夜行路は言いました。「宇宙進出という過酷な経験こそ、我々を真のモグラへと鍛え上げずには起きません」
「あの、『真のモグラ』、とか『モグラ』ってどういう意味で使っているんですか」
モグ山暗夜行路は知性の人であるだけでなく行動の人でした。モグ山暗夜行路はもう既に、小石をぎしぎし踏んで、短い足で地下の川原を駆けだしていました。病気のおかあさんのために印刷所の受付でモグ乳をもらおうとしたジョヴァンモグの背後から近づき、羽交い締めにし、いきなり地下洞窟の天井に向かって叫びました。
「さあ銀河鉄道よ、ジョヴァンモグがいるぞ。迎えに降りてこい!」
モグラ議長とお着きの武官たちも、
印刷所のモグラたちも、
ケンタウモグ祭りの子モグたちも、
モグラ宇宙移モグになる予定のモグラ一連隊も、しんと静まり、
銀河鉄道の警笛が聞こえてくるのを待ちました。

……宮沢賢治を読むと、私は、決して嫌いではないのですが、何か説明しがたい微妙な気分になります。宮沢賢治との最初の出会いは「アメニモマケズ」を強制暗唱させられた小学生の時で、あの勤勉さというよりむしろ他人のために身を捨てることへの渇望は小学生の私には我慢がならないものでした。なんか、宮沢賢治の幻想的な話を読むと、「アメニモマケズ」の人なら、こんな夢のようなことを書いていていいのか? 地の塩に徹っしないでいいのだろうか? という気がしてきます。
しかし「猫の事務所」は大好きです。猫の事務所に出てくる苛められる「かま猫」の可哀相で可愛い凄まじい可愛さは、今まで読んだ猫が出てくる話の中で一番です。話のテーマなぞ無視してひたすら猫の可愛さを味わうのが「猫の事務所」の正しい楽しみ方だと思います。……

私たちは銀河鉄道の警笛を待ち続けましたが、
当然何も起こるわけがありません。第42代モグラ議長は苛立たしげにモグ山・暗夜行路氏を睨みました。
モグ山暗夜行路はじっと考えています。「初めに言葉があったのだ。言葉と現象は対応している。さもなければ我々知識人が現象を書き記すことは不可能だ……」
モグ山暗夜行路は不意に明るい表情になると、風車を持ってうろうろしていた子モグラを指さして叫びました。「あいつがカンパモグラだ! 銀河鉄道の来訪にはカンパモグラの犠牲が必要なのだ! カンパモグラを溺死せしめよ!」
モグラ議長の近衛兵たちは、子モグラを取り囲み、ひーひー泣く子モグラを川に投げ落としました。

またみんなで銀河鉄道を待っていましたが、やっぱり来ません。
しばらくしてモグラ議長がモグ山暗夜行路に死刑を宣告しました。モグラ議長の近衛兵軍団が彼を連れ去りました。
モグ山暗夜行路氏は近代知識モグの痛ましい悲劇を体現していました。
辞世の句すらない。

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このブログ記事について

このページは、間瀬純子が2008年3月 9日 15:49に書いたブログ記事です。

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