1 フィクション: 2006年10月アーカイブ
『シックでエレガントな大人の女のためのファッション誌』
月刊 A4判 定価800円 オールカラー(同人誌にあらず)
に、わたくしが書いた原稿用紙30枚くらいの短編を載せてもらうことになる/
というのはもちろんあり得ない話だが、何かそういう設定になってしまっていた。
わたしは頭を抱えた。きれいな花をアップで撮った写真とのコラボレート。
限りなくどうでもいい感じの映像。(ファッションページの充実に比べ、読み物ページは微妙に脱力気味)
シックでエレガントでお洒落なショートストーリーを書かねばならない。
ラブストーリーでなくてもいいらしい。わたしは書き始めた。
群青色の海の底でわたしは、珊瑚礁に鉄の鎖で繋がれていた。が、飽きたので外して海底岩山を一つ越えると半魚人のわたしを作ってくれた博士がいて、「すまないのう。おまえの命は短い。地上に行って思いっきり楽しんでおいで」博士はごろごろ転がって海溝に行ってしまった。
わたしは地上に行った。出た場所は学校の校舎らしいが人気はない。思いきり楽しむというのは、刺身を食うことだろうか。
塩水を滴らせながらわたしは一人で空き教室に行った。がらんとした教室で、陸上用に服を着替えようとしたが、そこにあったゴミ袋に突っ込まれた服はすべて不格好であり、古くて虫が湧いている。しかし海中から上がって、ヘリンボーンの水着みたいなのしか着ておらず、寒いしやはり半漁人の地上での水着姿というのもいただけないだろうと、仕方なく変なカットソーとか着る。
わたくしの生乾きの髪は、塩蔵ワカメのようであり、化粧どころではなく、自分がとても汚く醜いと思う。そこへ味噌汁の匂いがしたのだった。味噌汁は合わせ味噌のようだった。
廊下に出ると、お洒落な若者が列を作り給食の配給を待っていた。「和食を食べるということはね、民族文化の統一を図る策謀なんだ」と、洒落た音楽家の青年が友人に軽やかに話している。
配給の味噌汁を受け取る列に連なる人々は、たいそう上品でお洒落である。
わたしはお洒落ではないので、彼らのルールから外れ、
彼ら……仲間内ではお互いに優しくスノビッシュな会話を楽しみ恋をしたり恋のさや当てをしたりしている彼らに、わたしは、まったくマインドレスな扱いを受けるだろうと予想される。同時に、わたしもこいつらに興味はなく、向こうから見たらわたしこそマインドレスだろう。
音楽家の青年は、わたしにまったく目もくれず、味噌汁付き定食を食べに奥の教室に向かった。
それよりこのフロアは高校の五階らしい。教室の窓は開いているが、白いカーテンで覆われている。カーテンをめくってみると、窓一面に鱈の白子ポン酢あえみたいな物体が迫っていた。つまり白くてぷにゃぷにゃしてところどころ皺が入った物だった。
質感的に、これは人間の脳味噌らしいとわたしは直感した。
五階まである学校校舎の両サイドにまたがって、巨大な右脳と左脳が被さっているのだ。
さきほどの音楽家の青年にでも、巨大脳味噌で覆われている校舎内にいることに対し、何か自嘲的かつシニカルなコメントでも言わせて、この文を締めるか、というか
「シックでエレガントな大人の女のファッション誌」
なのに舞台が、少年少女の行く学校でいいのであろうか。
指が切れるほど縁の尖った光沢のある紙に、鮮やかな花の写真とともに以上の文章がレイアウトされ、ラストにゴシック体で『都会の日々を描く、連作ショートストーリー、来月もお楽しみに』とか印刷されていた。
ああ脳味噌が学校を覆う話をシックでエレガントに書くのは難しいと思った。
まあでも他のページからさして浮いていないなとも思った。
わたしはこんな話を書いていてむなしくないのだろうかと思った。
