1 フィクション: 2006年7月アーカイブ

わたしが相変わらず、地下の暗い隅っこでじっとしていると、
モグラ議員たちを率いて、モグラ議長がやってきました。
わたしにはモグラの個体差がよくわからないのですが、
モグラ議長は立派な議長肩章をつけています。
「あなたのことは先代や先々代のモグラ議長から聞いています」
どうもモグラ議長は代替わりしているようです。
確かわたしがモグラ帝国に来たころ、モグラたちに親切にしてもらったお礼に、議会を作ることを勧め、議会には議長が必要だよなと思って、
モグラたちの中から、一番頭の回転が速そうなモグラに(と言っても、頭の回転の速いモグラなんてどうしてわかるでしょう。わたしはもちろん、いい加減に指さした先にいたやつを、『頭の回転の速そうなモグラ』ということにしました)「あなたが議長をやってください。頭の回転が速い上、様々な経験をお積みだし、教養もおありだし、何より度量が広く、公正で、要するに、人徳……モグ徳、が備わっているように拝察いたします」と指名したのです。
わたしには『人を見る目』などありません。以前、地上では、小説を書いていたりすることがばれると、やはり何か書いているらしき人に「人間観察とかしてます?」と訊かれたことがありましたが、全然していません。つうか人間観察って何よ。夏休みの宿題かよ。透明な檻に入れて電極刺して電流流して反応を見て絵日記とかつけるのか。
まあそんなわけで、人を見る目がないのです。ましてモグラをやいかに。
ああモグラ議長が入れ替わるなんて、
そんなに長くモグラ帝国にいたのかとわたしは少し感傷に浸りました。
初代モグラ議長がモグラ人力車に乗り、ミミズを投げながら華やかな就任パレードを行いましたっけ。
わたしは目の前の現モグラ議長に訊きました。「では、あなたは何代目なんですか」
「私で四代目になります」
「はあ、議長の任期はどれくらいで、次の議長はどうやって決めるのですか」
「議長は終身刑です」四代目モグラ議長が胸を張って言いました。「次の議長になるのは早い者勝ちです」早い者勝ちだから一番頭の回転が速いモグラが自動的にモグラ議長になるのです。
そういうものかなあ、まあどうでもいいやとわたしは思いました。
「**さん、モグラ議会で先ほど決定しました。モグラ帝国の近代化政策を推し進めるのです。
殖産興業です。富国強兵です。モグ魂人間才です。
ですから、あなたをモグラ帝国近代化推進人間に任命します」
近代化って何すればいいんですか。モグラのくせに、何かずいぶん面倒なことを言うようになったものですな。モグラたちはしょせんモグラであり馬鹿なので、
適当にちょっと何かやってやれば満足するでしょう。わたしは言いました。「憲法を作りましょう。近代国家なら憲法がなきゃいけません。ああ、モグラ帝国なんだから、立憲君主制で帝王は国家の象徴とでもしておけばいいでしょうか。ところでモグラ帝国といいつつ、モグラ帝王はどこにいらっしゃるんですか。一度、地下帝国の女王になら謁見させていただいたことがあるんですが、あの方は人間でしたし」

「モグラ帝国の帝王閣下が登場されるのは、この壮大な『モグラ帝国クロニクル』三部作・各・原稿用紙5000枚の、最後のクライマックスになるでしょう」
「原稿用紙5000枚ずつの三部作って、誰が書くんですか……」わたしは当然、嫌な予感がしました。モグラ議長が続けます。「あなたの今後の生涯をかけた一大事業であり、完成後は神聖なモグラ帝国の神話と歴史になります」「人間を主人公にした真面目な小説を書きたいんですが」
モグラ議長とモグラ議員たちが気色ばみました。「人間書くのが小説とか言われると滅びろと呪うくせに、あなたはモグラ帝国のモグラドラマを単なる余技、一発芸だと思っているのでしょう。人間が一番高級だというのが本音ですね。言文一致してません」わたしは言文一致体で書いてますが、何でもいいですが、原稿用紙五5000枚*三部作=計15000枚っすか……、原稿料ってどうせミミズとか良くてミイラの副葬品だよな。というか残り一生それで潰れちゃうじゃないですか。わたしは正直に言います。「モグラ帝国クロニクルをそんなに書くつもりはないです」「それはあなたが自由意志を主張しているということですね。自由意志は近代化しないと存在しません」そうなんですか? モグラ親衛隊がシャベルを構えて、わたしを狙っています。わたしは別方面の理由をつけて、拒否の意を示そうとしました。「モグラ帝国には原稿用紙もないでしょう。べしゃべしゃに濡れて腐った落ち葉5000枚に干涸らびたミミズで文字を作って貼り付けていては、三部作なんか永久に書き終わりません」
モグラ議長がにやりと笑いました。「ですから近代化で殖産興業でモグラ原稿用紙と万年筆を作ります」
モグラ最近賢くなってますね。
「近代化ですか(どこからそんな考えを拾ってきたんだこの馬鹿モグラは)、とりあえず憲法制定ですかね」
モグラ議長が言います。「時計を作ってください」
J.G.バラードの初期短編に確か時計をすべて捨てた都市の話がありました。主人公の少年は打ち捨てられた時計を見つけ、時計で時間を計りながら、効率良く物事を片づけることを発見するんじゃありませんでしたっけ。だから、近代化の第一歩は時計製造なのか。ああしかし、モグラ帝国でそんなことしなくたっていいじゃん。動きが鈍い、睡眠障害、その他よくわからない理由で、地下帝国の女王じゃなくて遅刻の女王の名をほしいままにした嫌な記憶が蘇ってきます。重層した人間界の、ある層では、時計に従えない人間は害になり、超迷惑なゴミ物体になることが多い。ご迷惑をおかけした当時の関係諸氏、すいません。
モグラ帝国は地下で、発光する黴とか以外光源はなく、ずっと薄暗く、時刻を分ける単位というものすら存在しません。人間界で最初に暦や時刻を決めた人々は夜が明け暮れ、季節が移り、月や星の位置が変わっていくことから時刻の単位を作っていったんじゃないかと思うのですが(これは地下にいるわたしの想像ですので、例の如く、暦や時刻がいかにして登場したのかを知りたい方は いんたーねっと でも使ってお調べください。モグラ帝国には いんたーねっと なんてないんですよ)
さて、空が見えない地下で、時刻の単位の根幹になるものって何なんでしょう。
わたしは腕時計をしないのですが、人間界からそのまま持ってきた鞄には、旅行用クロックがあるはずです。電池切れです。
モグラ議長はわたしに早く時計を作るように言い置き、去っていきました。いつまでに、と言いたそうでしたが、『いつまでに』の期限も、時間を計る単位がないから、言いようがないです。
鍾乳洞をうろつきながら、地下でどうやって時刻単位を決めればいいんだよ。鍾乳石の柱を見て、あれで歯車とか作ればいいのか、って磨製石器作るなんてやってられるか。大体、ゼンマイ時計の作り方なんて想像もつかないよ。
人間の体内リズムは地球の自転と違って、25時間周期になっていて、昼夜の明暗の差のない場所にいると、25時間になると聞いたことがあるなあ。

ということで、
わたしが寝た時から、次に寝るまでが一日ということにしました。多少『一日の長さ』にズレがあろうと知ったことではありません。モグラ議会に通知すると、モグラの一群がやって来ました。「わたしたちはモグラ陰陽寮の暦係です」
こいつら式神飛ばしたりするのかと思いましたが眠かったので寝ましたが途端モグラ陰陽寮の暦係の馬鹿モグラたちが巨大な鐘を打ち鳴らしました。一日の終わりだか始まりを告げる鐘がモグラ帝国のあちこちで次々と一斉に鳴ります。眠れません。ダメじゃん。一日の境を起きる時間に替えてみましたが、起きた瞬間やはり鐘の音の嵐がわたしの上に落ちかかりまわりにはじっとモグラ陰陽寮のモグラ安倍一族が座りこんでいて真剣な目でモグっとわたしを見守り鬱陶しいことこの上ない上、ガンガン鐘の音が。低血圧なんだよふざけるな。

困った何かないかと思いながら、わたしは鍾乳洞の地獄茸と名付けたお気に入りの鍾乳石に座り、人間界から持ってきた鞄を開けました。化粧ポーチの中に、眼鏡のフレームのネジを締めるための5センチほどの長さのドライバー三本セットが入っています。100円ショップでこれを見つけた時は嬉しかったです。眼鏡フレームがすぐにゆるむ気がして、以前は小さいネジ穴用のドライバーを一本持っていましたが、長さが15センチくらいあります。5センチのドライバーなら、持ち運びにも便利で、考えた方、作って売り出した方は偉大です。あー、モグラ議長も近代化でモグ魂人間才を求めるならこのドライバーを作ったような方を近代化推進委員にすれば良かったのに。
モグラ陰陽寮の一匹が、真剣にわたしに言います。「**さん、わたくしは陰陽寮の長官です。わたしどもは心配なのです。近代化によってこの帝国が何か精神的に貴重なものを失うのではないかと、そしてわたくしどもの仕事が野蛮な俗信として片づけられるのではないかと」
「物忌みとか方違えとか面白そうじゃないですか」
「面白いからやっているわけではありません。本当に艮を金神が塞いでいるのが見えるのです」モグラ陰陽寮長官は常に真剣です。困る。わたしに真面目なことを訊くな。「ええと俗信で、本当に根拠がなく、むしろモグラ人生にあって害悪にしかならない俗信……ロックが好きなモグラは前世が悪ミミズだから打ち殺すとか、そういうのは記録だけ残して、行為自体は止めたほうが良いのではないですか。そのへんを峻別する作業をモグラ安倍一族の皆さんがおやりになれば」「ああ、わかりました!」モグラ陰陽寮の一族は、近代化の、夜明け前の期待でモグラ目をキラキラと輝かせていました。「わたくしどもは、このモグラ帝国の繁栄のためならば命をも捨てる覚悟なのです」
わたしは五センチのドライバーセットに、マイナスドライバーが混じっていることに気づきました。わたしは眼鏡のフレームのゆるみを締め直すためにこのドライバーセットを買ったのですが、眼鏡のネジ頭はみんなプラスです。
で、まあ問題は、時刻の単位ですよ。熱心なモグラ陰陽寮の大人たちが丸い体でモグモグとメモを取っています。その中のどれが長官なのかもうわたしにはわからなくなってしまいました。モグラ安倍一族はたくさんいますが、子モグラを除くと、大体同じ体格で例の如く個体の区別がつきません。
「長官さん」呼ぶと、モグラ陰陽寮長官(多分)が出てきました。わたしはiPodminiの付属ヘッドフォンをモグラ陰陽寮長官の前足から胸に引っかけ、鍾乳洞の石柱に吊し、マイナスドライバーを腹の辺りに金属部分だけ差し込みました。モグラの血がぽたぽた垂れます。「モグラ安倍一族がマイナスドライバーを腹に刺してから死ぬまでが、『モグラ日』一単位です。モグラ安倍さんたちはどんどん一族を増やして、こうやって一日を計ってください」
モグラ陰陽寮長官は、げふげふ血を吐きながらも嬉しそうです。モグラ日が制定されたぞ! と、モグラ陰陽寮の誰かがモグラ帝国中に触れ回り、帝国中に鐘が鳴らされました。
モグラ帝国近代化万歳。

翌モグラ日、わたしは、モグラ陰陽寮長官バーガーを食べながら、
そういえば、水時計や砂時計というものもあったな、と気づきました。

山の中にいて下界に降りてきたら
ミサイルが飛んでいた。

行った先の山は、見渡す限り一面、大小様々な山が続き、山の畝のようだった。
朝起きると、窓から山の畝に光が当たっているのが見えた。
一瞬何故ここにいるのか全然わからなかった。

attention
ここからはフィクションですよ。

大昔の村でわたしは暮らしており
村の全員それぞれが、
それぞれの七代前の先祖がやったことまで知っており、
わたしの五代前の茂吉が鉈を振り回して村中を暴れ回ったこととかが
口承で伝わっており、
わたしの嫁入り先の姑がその件でいつも嫌みを言い、
わたしの末っ子の留吉に対し、おまえには、
鉈を振り回した茂吉の霊が取り憑いていて、将来きっと茂吉と同じことをやると繰り返す。
わたしは留吉が可哀相だと思い、姑が寝入ったあと留吉にフォローしようとするが
留吉に、もう子供生むのイヤだから
留吉って名前をつけたのは、わたしである。
もちろんわたしも姑の伯母の祖母が***で***だったとか知っている。
姑のことを、口には出さずとも、頭の中で『**な、****な、』と形容し続け、
言葉で意味づける。

村中の人同士の、口に出す出さないはともかく、
先祖子孫にまでわたる言葉の意味づけの錯綜。
わたし(登場人物)は、何か面倒になって、
深い山が、意味に汚染されていない清潔な空間に見えて、
留吉も置いて一人で、不吉な伝承のため村人も避ける山に入ってみました。
というか、
もう村の労働がイヤになっただけかな。

村を出たら、他の村は遙か彼方で、街? 都? 何それ? 
話には聞いたことはあるが、本当に存在するのか謎であり、
山で自給自足をする能力気力もない。
わたし(登場人物)は村人の近づかない山にのろのろと登っていった。
ビニールシートを電気工事用結束バンドで木にくくりつけ、テントを作って、
あとは寝ていた。
成人男性の親指ほどの
芋虫が目の前を這っているが、その時わたし(登場人物)は、その芋虫を食うか否か。

即席のテントに雨が浸入してきます。
村人たちの言葉の錯綜が鬱陶しいと言いつつ、
わたし(登場人物)が一人になり、
他人のいない、山の中で転がっていても
頭の中には絶えず言葉がつきまといます。
村の衆はわたし(登場人物)がいなくなったのも
わたしの五代前の茂吉が鉈を振り回した祟りだと噂するのだろうな、とか
その因果関係のつけ方には疑問を感じる、とか。
そして留吉は茂吉の鉈振り回し事件+わたし(登場人物)失踪事件について、
留吉は「そういうことをやった先祖と母を持った奴」と言われ、
それは村の言葉では「生まれながらに悪いことロクでもないことをするであろう奴」を意味するだろう。
留吉よ、今後、村中でそう意味づけられ続けても、
まあ真っ当に反論できる知性と実力を何とかゲットしてくれ、
お母さん(わたし/登場人物)は疲れましたので逃げます、すまん、とか。
しかし今わたし(登場人物)は、村の衆が何を考えているか想像しているが、
一人一人が何を考えているかなんて実際のところ、正確にはわかるわけないな。とか。
いきなり村が巨大宇宙船であったことが判明し、ワープ航法で宇宙の涯に飛び去っているかもしれない。
そして、暑いなアイスクリームが食べたいな、とか。

実はわたし(筆者及び登場人物)はとても言葉が好きなのです。
言葉の、何かを意味づけ指し示す効果が鬱陶しいときがあっても、
言葉が意味を持っていることが魅力でもあるのです。
でもやはり鬱陶しくなる時があり、そういうときは、狂騒的に、
言葉を使いつつも、あまり意味を持たなそうな言葉遊びに走ったりしますが、
例えば「豆腐を洗う猫が唐で豆腐と不当は似ている」
その言葉遊びも、何となくお話になったりしているように見える。

どれくらい時間が経ったのかな。
山の中で、破れたテントでびしょびしょになったまま
飢え、森林の木々に押しつぶされるように寝そべっていると、
段々、わたし(登場人物)の頭の中からも言葉は消えていきます。

あー、
なんか言葉が好きだから、きれいな言葉を思いだしたいと、
わたし(登場人物)は、わずかに残った言語能力で漠然と考えます。
何がいいですか。
わたし(筆者及び登場人物)がかつて言ったり書いたりした言葉の中でマシなやつでも、
素晴らしい作家や詩人の言葉でもいい。もう自他の境界を付ける必要もないのだ。
*原*也(←名前忘れているらしい/筆者・註)の市じゃなくて詩は? 
わたし(登場人物)には、長くて思いだせないようです。
ああ、和歌とかいいですね。
わたし(登場人物)は、腐った木の根を枕に、
和歌を思いだそうとします。
時間の感覚はありません。林が明るかったのが、暗くなりました。
どこかで
なんかの動物が鳴いています。

わたし(登場人物)は、夜が明け、また暗くなるころ、
ようやく、和歌を一首思い出します。

この世をばわが世とぞ思ふ 望月の欠けたることもなしと思へば (c)藤原道長

シチュエーションと全然合ってないじゃんかよ、とわたし(筆者)は思いましたが、
わたし(登場人物)は
一晩中この和歌を気持ちよさそうに頭の中でリピートしていました。


**
追記:
ブログ更新久しぶりです。
今後、ますます更新しなくなっていくと思われます。

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