豆腐洗い猫は、豆腐洗い怪獣トフラーの脳に閉じこめられていた。
トフラーは豆腐湖の奥底に隠れていた豆腐怪獣である。豆腐怪獣トフラーは、遺伝子組み換えまくり五〇〇〇倍体豆腐のカスが溜まり発生した怪獣だった。組み替えまくられた遺伝子は、猫になぶり殺されたアンゴラ兎や、人間の子供に実験だと称して、鱗粉を落として透明チョウチョを作ろうと歯磨き粉と歯ブラシで洗われて溺れた蝶や、その他、魔女狩りや異端審問でじわじわと拷問されお祭りで三日三晩かかって焼かれた人、人柱や生贄、淫祠邪教の殉教者、流刑にされて祟ったのに祭って貰えないとか、その他、恨みを飲んで死んだ魂、まつろわぬ魂、全からぬ命、の遺伝子が色々混じっていた。トフラーの脳内は怨嗟と毒と虚無が流れていて、豆腐洗い猫ちゃんが、神経細胞をかりかりと引っ掻きながら、こびりついた豆腐を洗っても洗っても、恨みは取れないのだ。年を取った女の人の叫び声がする。『こんな夜中に何故こんな大きな音がするんですか。駐車場で車が何台も燃えているんですか。誰か来てください、こんなの許されません。消防署に連絡してください』昔とても親切だった奥さんが、振り絞るように叫んでいる。でも、彼女の声以外、夜中に何の音もせず、炎も上がっていないのだ。豆腐洗い猫は消防署に電話をしたかったが、携帯電話を持っていなかった。
豆腐怪獣トフラーは厭世観に駆られて宇宙に飛び立った。そして可哀相な猫ちゃんは、トフラーが宇宙に昇っていくのにそのまま逃げだすこともできず、トフラーの脳の中で宇宙に昇っていくのを感じているだけだった。すごいGであることだった。私は、世界三大バレエの豆腐洗い猫ヴァージョン計画を考えていたのに、何故、豆腐怪獣の話になったのかよくわかりません。世界三大バレエの豆腐洗い猫バージョンのラストはもちろん、バレリーナたちがトゥシューズを履いていると思ったら、とうふしゅーずだった、というオチです。
なんか豆腐洗い猫を脳内に閉じこめた豆腐怪獣トフラーは、大気圏を焼き豆腐になりながら昇っていき、その鳴き声の凄まじさと悲しさの凄絶さ。トフラーは銀河鉄豆腐となって
銀河に向かって飛ぼうとしていた。
銀河鉄道に乗る人々には
カムパネルラとかメーテルとか
仲間がいるのに、豆腐洗い猫は孤独である。
発車します。ご注意ください。
そこへトフラーの銀河鉄道化した窓を突き破り、
人工衛星が飛び込んできた。衛星放送用の衛星だった。
豆腐洗い猫は衛星放送用の衛星の放送室にもぐりこみ、マイクを取って助けを呼ぼうとした。
「助けてにゃー。地球に帰りたいにゃー」
衛星放送用の衛星から電波が飛び交い、
地上のテレビに流れた。
豆腐怪獣トフラーの厭世観で
当然、放送の電波は歪んだ。
♪豆腐洗い猫のクッキングタイム♪
本日のメニューは豆腐のサンドイッチです。
絹ごし豆腐と木綿豆腐を一丁ずつ用意してください。
絹ごし豆腐を横に半分に切って、
バターを塗って、木綿豆腐を挟みます。
できあがりだにゃー。
♪♪♪♪♪(^_^)b
レシピ通りに作って、
手にとって食べようとした人々は当然
豆腐がぐしゃりとくずれることに
怒りを覚えた。
サンドイッチは手でつまんで食べるものではないか。手でつまめないサンドウィッチなどというイカサマ物品を食わせるな。
銀河鉄豆腐トフラーを、地球の人類が作った、地上の、衛星軌道上の、すべての兵器が攻撃した。銀河鉄豆腐トフラーは身をよじりながら宇宙へと駆け上った。
そして宇宙にぽいと出た。銀河鉄豆腐怪獣トフラーは宇宙にたどり着くと燃え尽きてしまった。豆腐洗い猫は焼け尽きた豆腐怪獣トフラーの、巨大な電車の骨組みの外に這いだした。
宇宙はすごく暗くて、玉砂利がびっしり敷かれた道があって、右手はずっと高い生垣が続いている。生垣の木は、光沢のある小さな葉がびっしりついた常緑樹で、きれいに刈り込まれている。玉砂利の向こうにぽつんと街灯がついていた。
玉砂利の敷かれた地面は何しろ宇宙だから、斜めになって重力とか滅茶苦茶で、歩いているんだか天上にぶら下がっているんだかわからなかった。空にあたる部分は真っ暗に渦を巻いている川みたいだった。ブラックホールかも知れない。あそこに落ちたら、それともあそこに昇っていったら豆腐洗い猫などはばらばらになってしまうだろう。
豆腐洗い猫は地球に帰りたかった。高いところにいるのは、零落神であり妖怪である豆腐洗い猫には身分違いである。だけどどうやって帰ればいいのだろう。豆腐洗い猫がおずおずと街灯のほうへ向かっていくと、零落していないほうの神が、生垣の陰に隠れていて、おまえなんか来るなと言った。その怒声がびりびりと豆腐洗い猫の毛を伝ってみしみしと刺されるようであった。怒られても困るにゃーと思った。豆腐洗い猫としては地上で充分である。
というより地下のほうが好きである。
玉砂利の道の先の駅の近くの街灯の下で、天上の神々がたむろしている。ヤンキー座りをして缶コーヒーを飲んでいる。駅前の天上の神々は、天上神の中で比較的、気の弱い一柱の神を捕らえた。リーダーの神は『穴あれ』と言われた。すると玉砂利の地面に穴が開いた。神々は気の弱い神を穴吊り拷問にして遊び始めた。拷問されている逆さ吊りの神の額に開けられた小さな穴、すなわち、血が溜まってすぐに死なずに長く苦しむように開けた小穴から、血がぴゅーっと飛ぶ。
怖いので猫は逃げた。逃げようとしたが、ただ玉砂利の道と生垣が続いているだけである。玉砂利の道をぴょんぴょん走っていると、空のブラックホールが上なのか、道が上なのか、全然わからなくなる。また駅があり、また別の、天上の至高の神が原チャリにもたれて、漫画の立ち読みをしている。豆腐洗い猫は生垣をくぐろうと頭を突っ込んでみたが、きれいに手入れされた生垣は、非常に細かい網の目のように枝が入れこんでいて、枝には長さ二、三センチほどの肉厚の葉が隙間無く生え、生垣表層の葉のエッジが豆腐洗い猫の頭を引っ掻くだけだ。ようやく生垣から頭を抜くと、薄い耳にひっかき傷がついていて、豆腐洗い猫は痛くて泣いた。
*この話はデタラメです。ひどい嘘です。
